品目紹介

さつまいも
酒栄 善博さん

『どうせなら日本で一番の芋と同じ状態でやりたかった。
棺桶に入るまで、一生勉強や。』

江戸時代に、薩摩から持ち込まれたというさつまいも。
金沢の砂丘地で、気候や風土に合う品種を選び、栽培法を学び、土を作り
水管理や施設を整えながら、今では全国屈指のさつまいも産地に。
産地の生産者と共に、さつまいもの匠は独自の工夫を積み重ねてきました。

奇跡の砂が作る コボコボな食感

西は日本海。南は手取川の一帯に、砂丘地が広がっています。手取川の河口から離れるほど、砂の粒が細かくなるのですが、さつまいもの産地“五郎島”は、大きすぎず、小さすぎずの粒の砂地になっています。その水持ちと水はけの絶妙のバランスは「奇跡の砂」と呼ばれているほど。 加賀野菜のさつまいもは、水気が少なくホクホクとした甘みが特徴。今はやりの安納芋などのねっとりした食感とは一線を画すこの食感を、地元では「コッボコボ」と言い、高く評価し好んできました。 同じ系統の品種ですが、徳島の鳴門金時は少しねっとりしています。また、安納芋をこの砂地で作っても、独特のクリーミーな食感にはならないそうです。 スプリンクラーが導入されて水管理がしやすくなったこともあり、五郎島の砂の奇跡ぶりは、ますます発揮されることになります。 「奇跡の砂とはいうものの、水管理あってのもの。スプリンクラーは使いこなせんかったら意味がない。天気予報と土の状態、生育状況を見ながら、いつ、どれぐらい水をやるのかやらんのか、を考えんと」。酒栄さんは、語ります。

産地として いいものを作ること

恵まれた砂地ですが、それだけでおいしいさつまいもが育つわけではありません。以前は、生産者がそれぞれで肥料の種類や量を選んでいました。 「肥料が多いと大きくなるけど味はよくないとか…そういうバラつきをなくすために、地域の農家の知識やノウハウを集めて、みんなが使いやすい統一の専用肥料をつくったんや。20年ぐらい前、加賀野菜になる前やね。もちろん、それぞれの土地で、砂の粒の細かさも違うし、地下水位によって水の管理の仕方も違うけど」。 3月15日ごろ、ハウスで種芋から苗を育て、畑に植えるのは5月に入ってから。 「八十八夜の別れ霜っていうやろ。早く植えると霜にやられてしまうんや。逆に遅すぎでも味ののりが悪くなる」。温暖な鹿児島や徳島とは違うサイクルです。 冷涼な金沢が産地として躍進したのは、さつまいもを定温で貯蔵するキュアリング施設を作ったことが大きい、という酒栄さん。日本有数のさつまいも産地、徳島や茨城を視察して、地元の農協と産地で多額な投資をして作ったそうです。この施設のおかげで、秋から翌年の夏前まで、長く出荷できるようになり、その味や食感が高く全国で評価されるようになりました。

独自の路線を歩む 匠のさつまいも作り

「一番は、最高の圃場を作ること」だという酒栄さん。さつまいもに適した砂になるように、麦や牧草を植えて砂が飛ばないようにするなど、土を大事にしています。 「どうせやるなら、徳島の日本一単価の高い芋と同じ状態でやりたいと思ったんや。徳島のさつまいもは塩田に瀬戸内海の砂を入れていたから」と、潮風の吹く海岸の高台の土地を買ってその砂を運び入れたり、灌漑設備に莫大な投資をしたり。また、徳島では肥料に鶏糞を使っていると聞き試してみたり。さまざまな試行錯誤を繰り返して、今では「酒栄さんの芋じゃないと」という市場関係者や料理人も数多くいるそうです。 「技術はたいしたことねえけど、人がやらんことを先にやってきただけや」と、55年のさつまいも栽培を振り返る農の匠。「いまだに毎年毎年、最高のものができるかどうか。来年は灌漑設備をどうしようかと考えるわ。水があたるところは形が悪いし、水がなさ過ぎてもころころするし…」と。 「毎年気候も苗の様子も違う。生涯一年生、棺桶に入るまで、一生勉強や」。その背中を見ながら、酒栄さんの息子たちも、毎年さつまいもを作っています。

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