品目紹介

二塚からしな
海道 順一さん

『ゆっくり成長して最後に寒さに合う
これで辛味成分がのるんです。』

金沢の西部、海に近い二塚地区で稲作のあとに作られ
冬の保存食として欠かせなかった二塚からしな。
寒くなると、地元のひとは食べたくなるそうです。
わさびに似たピリッとした辛味は、冬の寒さが作ります。

手間はかからないけど 見極めが難しい

海側で風が強くて雪があまり積もらない。二塚地区はこの気候を利用して、稲作の後の二毛作をしていました。一番多かったのは、干し大根。次に吹立菜(ルビ:ふきたちな)、からしな。どれも漬け物にして、冬の間の保存食にする野菜です。 海道さんの家も、代々米とからしなを作っていました。現在、からしなを市場に出荷しているのは、海道さんだけです。 「もともと、各家庭が保存するために作っていたものだから。加賀野菜に認定されることになって、栽培する人を探していたんやね。作ってみんか、と言われて『わかった、作ってみるわ』と。で、はまってしまった」と笑います。 今は、稲作をしているこのあたりの農家でも、からしなを作っている人はほとんどいないそうです。 「昔、この辺の農家の人たちは、稲を刈る前の田んぼに、からしなの種を播いていたんです。稲とからしながほんの少しだぶっていたんやね。でも今は、稲刈りがコンバインになってしまったでしょう。芽が出た土を起こすし、手で稲を刈っていたころは人間が踏むだけだったけど、今はキャタピラで踏みつけてしまうからね」。

少しスパルタで ゆっくり育てる

種を播くのは、9月の終わりから10月半ばにかけて、3回。その年の天気予報を見ながら、気温はどうか、いつ雪が降るのか、いつ寒波がくるのかを予測して、出荷日を逆算し、種を播く日を決めるそうです。 「ちょっと年配の人は、12月半ばぐらい、寒くなるとからしなを欲しがるんです。だから、その時期に出荷できるように。その頃に高さが20㎝~30㎝になるのがいい。あったかいと成長が早くて。大きくなりすぎると、辛味が出ないしね」。 定説では、あまり肥料をやらずに育てたほうが辛いというからしな。ゆっくりと大きくなるほうが辛味成分「シニグリン」が蓄えられるから。寒さに合うと成長が止まり、その間、さらにシニグリンが増えていくそうです。 「だから、ある程度ほうっておくのが一番いいんやけど、そうすると成長が一定にならないでしょう。出荷したい頃に合わせて追肥をします。たくさんやりすぎてはダメ。ほうれんそうとか小松菜みたいにわーっと緑色に大きくなってしまうから。顏、というか色具合とか、成長度合いとかを見ながら…その見極めが難しいんやて」 辛味ののったものは、葉の色が少し紫っぽくなっています、これは、肥料が切れているからで、このタイミングで収穫するのが一番だとか。 「北陸の寒さのなか、ゆっくり育つのがいいから、ハウス栽培は向いていないの。だから寒波が一番恐ろしい。あられが降るでしょう?あれにあたると、葉っぱがカチャカチャに傷んでしまう。だから、寒波が来るとなったら、急いで寒冷紗をかけるよ」

種を守ること 種を活用すること

稲作が機械化されるにつれてからしなを作る人が減り、一度途絶えかけていた、二塚からしなの種。たまたま、土手の景観のためにだいこんと共に植えられたことから、絶滅を逃れることができました。海道さんは、その種を譲り受け、毎年からしなを作っています。 その種が、新しい注目を浴びるようになったのは2014年のこと。二塚からしなの種でマスタードを作ったのです。採れる種の量が少ないのでまだたくさんは作れませんが、味が評判を呼び、瞬く間に完売しました。 「種を使ってもらえるんなら、大きくなりすぎたからしなも種採り用として使い道がある。もっとたくさん植えないといかんな」とうれしそう。 とはいうものの、寒さで育つからしなに合わせて、寒い時期の屋外での作業。大変ではないだろうか。 「母親から受け継いだのか、私は冬でも手があったかいんですよ。寒さに強いんやろうね。それに健康を考えたら身体も動かすし、働くだけで元気になる。取材も来るし楽しいよ。毎年楽しみにしている人もいるのに『今年は作っとらんわ』って言えんしね」。と言いながら、海道さんは、寒風が吹く畑を鎌を片手に軽々と歩き、二塚からしなを収穫していました。

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