品目紹介

金沢春菊
西本明弘・西本いずみさん

『伝統は守るものじゃなくて
作っていくもんやと思っています。』

葉が広くで丸みがあり、やわらかい。
「ツマジロ」とも呼ばれ、昔から市内各地で作られていましたが
自家用がほとんどで、数年前まで出荷していたのは1軒だけでした。
この金沢春菊の生産に飛び込んだご夫妻が、新たな風を起こしています。

夫婦二人三脚 未経験からの挑戦

最初に農業の世界に飛び込んだのは、奥様のいずみさんでした。自分たちが食べるものの安全を考えたら作るのが一番だと思い、金沢市農業大学校で学ぶことにしたのです。 「それに乗っかったような形で、2年後に私も農業大学校に入りました。嫁さんの農作業を“うらやましいな”と思いながら会社勤めするの もいやだったし、60歳過ぎて農業を始めても体が動かんかもしれんと思って」と、早期退職をした明弘さんは、夫婦で春菊作りを始めます。 当時、加賀野菜の春菊を出荷していたのは、ベテランの生産者1軒だけ。その人が露地栽培をしているので、露地の春菊が出回らない冬場にハウスで出荷しようと、産直での販売からスタートしました。 ほかの作物も作りながら、ハウスでできるだけ長く春菊を出荷できるように、と考えたという西本さんご夫妻。毎年いろいろ試してみて、現在はハウスまわしを確立し、年間を通して春菊を含む6品目を作っています。 会社員として働いていた経験でしょうか。自分が持っているハウスや機材を合理的に使い、システマチックに生産をとらえているようです。野菜作りの経験がなかったので、常識に縛られなかったのもよかったかもしれない、と言いながら、こんなエピソードも。 「初めのころは、金時草を通年出荷しようと考えて、ハウスの中で夜に紫色の電気をあててみたり。紫の色がきれいに出るかもって。周りの人は“あそこは何しとるんやろ”って思ったやろうね。あはは」。

前例がないから ずっと試行錯誤

春菊は、F1種でも芽が出にくい野菜です。自家採りの種を守り継いでいる金沢春菊になると、発芽率は3割程度。最初の頃、ハウスに種を播いてもなかなか芽が出なくてへこんでいた、という西本さんご夫妻。 「発芽率がそんなに悪いと知らなくて。何回も播いて、播いているうちに寒うなって、もっと芽が出んようになったり…。なんで出んの?って思っても、ハウスで春菊を作っている人がいないから同じ時期に播いている人がおらんわけで、誰にも聞けんしね。葉が大きくてやわらかいから病気にもなりやすいけど、まわりに春菊…というか、このへん稲作しかないから、野菜を作っている人もほとんどおらんしね。行政の専門家に聞こうと思ったら、子どもの病気じゃないけど、聞きたいときは休みやったり夜中やったり…」 夫婦ふたりで試行錯誤を重ねながら毎年毎年やってきたという明弘さん。 「ちゃんと出荷するようになって6年目ですが、いまだに試行錯誤です。種の播き方とか時期とか、肥料や育て方など、まだまだいろんな方法があると思うけど、1軒だと一年一作しかできんから。でも、ここ数年で、新しく春菊を作る仲間が増えたんです。その人たちと情報交換すれば、自分以外のパターンもわかる。進歩のスピードが上がってきました。彼らの農地は、砂地だったり山手だったり、作っている環境が違うから、よけいにいいんでしょうね」

伝統野菜ながら 味も形も進化中

20年~30年前は苦くて嫌いやったという人がいる金沢春菊ですが、今はやわらかくて甘みがあって…と評価されています。 「今の春菊は、本来の味とは違うのかも」と考えている西本さんご夫妻。 「でも、金沢で昔からつくられているものには変わりないし、種を採って作っているわけやし。ただ、大きさや形、味なんかも市場や食べる人に合わせて変わっていくほうがいいのかもしれんね」。 仲間が増え、情報交換をするなかで栽培の仕方も1年でずいぶん変わったので、10年後は、もっと違うものになっているかもしれないといいます。伝統野菜でありながら、常識に縛られずに、新しい生産者が切磋琢磨して「おいしい」ものを追求している、今の金沢春菊。 「伝統は守るもんじゃなくて、作っていくもんやと思う」明弘さんの言葉が、これからの金沢春菊を象徴しているようです。

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