“いいね金沢”加賀野菜

加賀野菜〜産地からのストーリー〜

せり・堀 弘光さん

堀 弘光さん

『天候に応じたことをする。
せりは、どんな作り方でもできるわ。』

全国各地で栽培されているせりですが
金沢のせりは、茎が細くて香りが高いことで知られています。
きれいな水が豊かに湧き出る、諸江の地で三代目。
せりの名人は、今や天候次第で自由自在に成長を操っています。


おいしい地下水が
おいしいせりを育てる

 立派な門構えの旧家と新しい家が混在して建ち並ぶ住宅地、諸江。せりの田んぼは、住宅や児童公園に囲まれるように点在しています。数十年前までこのあたりは一面水田で、米の裏作としてせりを作っていた人も大勢いたそうで、きれいな水の流れる水路が住宅街を縦横に走っています。
 「諸江は水がいいからね。昔はこのへん、どっからでも水が出とったよ。浅野川の伏流水やと聞いとるけど…。錆まじりの“赤水”に対して、 “黒水”とわしらは言うとるけど、このへんの地下水は、この黒水。黒いわけじゃなくて、きれいな水やね。この水じゃないと、せりは育たん。作業の合い間に時々水を飲むけど、おいしいわいね」。
 地下水は冬でも約15度。きれいなだけではなく、この温度も重要だという堀さん。
「せりは13度~15度じゃないと育たん。田んぼに張った水は冷たくなるから、地下水であったかくしてやらんなん。水道水じゃ、冷たすぎるから」
 豊かできれいで冬でも温かい。この地下水に恵まれていたからこそ、諸江はせりの生産地として栄えたのです。


苗づくりに約半年
せり独自の育て方

 作り方は見て覚えたという堀さん。苗作りが始まるのは、4月の半ば。種ではなく、前年に植えたものからいいものを選び節の部分を残しておきます。これをそのまま植えて育て、9月上旬に刈り取り、田んぼからあげるのです。
「こんもりと積み上げてビニールをかける。植物やから呼吸するし、中があつーなって、チクチクちいこい芽が出るんや。日があたってないから、もやしみたいな白い茎で。それを押し切りで20~30㎝ぐらいに切って、代掻きした田んぼに均等に“打つ”んや」。
投げつけるような感じで、地面に刺さるように植えることから、せりを植えることを“打つ”というそうです。
 普通にしておけば、10月半ばには収穫できるぐらいまで育つのですが、せりの需要が一番あるのは年末。
「肥料を調整しながら育てる。12月に入ったら寒いからせりも成長せんし、成育状況を見ながらね。で、いいときに収穫。それ以降は、肥料をちょっとだけやって、ちょっとのびたら水を切ってビニールをかけて地下水を流す。そうしたら、あったかいやろ。せりも成長するんや。あんまり大きくすると、寒波が来たとき風で倒れてしまうから、小さいまま。天気予報を見ながら、寒波がくると倒れんように田んぼの水位をあげてやるし」。
 父から受け継いだあと、作り方を少し変えたという堀さん。突然寒波が来ても、暖冬でも、どんなことがあっても大丈夫なように。
「突然あられが降ってせりが傷んでも、根が残っていればOK。それに応じた作り方をするんや。暖冬の場合は、1週間ぐらいの違いで横から小さい茎が出てくるから、植え付けの時期を調整したりしとるよ」。


鎌ひとつで収穫
全部手作業

 せりを収穫することを“こぐ”といいます。胸まであるゴム長をはき、ゴム手袋をして、鎌と“こいだ”せりを入れるかごだけを持って田んぼに向かいます。
 水を張った田んぼに入り、腰をかがめて鎌で根の上のほうから刈り取ります。刈った束をそのまま水につけ、根の泥を軽く落としたらかごに入れていきます。
 「寒いやろうってよく言われるけど、全身運動みたいなもんやから、寒うないよ。水が冷たいときは、地下水をホースでもってきたらあったかいしね」
 隣で収穫している息子の友宣さんは、「僕は同じ姿勢だと腰が痛くなるので」と、ひざをついて水に入り、鎌を動かしていました。
 “こぐ”スタイルもそれぞれ。四代目も、また父のやりかたを少しずつ変えながら、次の世代へ繋いでいくのでしょう。